マイグレーションとリプレースの違い システム移行の選択肢

システム開発の基礎知識
システム更新を考える上で、「マイグレーション」と「リプレース」の違いの理解は欠かせません。
同時に「コンバージョン」や「再構築」などの選択肢についても理解しておく必要があるでしょう。
本記事では「マイグレーション」「リプレース」「コンバージョン」「再構築」の違いをわかりやすく整理し、最適な選択を導くための指針をご紹介します。
1.マイグレーションとリプレースの意味と違い
「マイグレーション」と「リプレース」はどちらもシステムの移行方法ですが、その方法には大きな違いがあります。
「マイグレーション」と「リプレース」の違いの理解は、システム移行を考えた際、非常に重要なため事前に整理しておきましょう。
マイグレーション(Migration)とは、既存のシステムやデータを新しい環境やインフラに移行させる方法です。
既存の構造やアーキテクチャはそのままに、新しい場所にシステムを移すイメージです。
例えば、オンプレミス(自社のサーバー上)で動いていたアプリケーションをクラウドに移行するケースがこれに該当します。
マイグレーションは、システムを大きく変更せずに移行できるため、ユーザーの混乱が少ないのが特徴です。
リプレース(Replace)は、既存のシステムを完全に新しいものに置き換える手法です。
目的は同じでも、技術やデザインを最新に刷新するため、一から構築することになります。
例えば、古いシステムを最新の技術を用いて再構築したり、スマートフォン対応に改良したりするケースが含まれます。
リプレースでは、システムの弱点や非効率な部分も改善できるため、現状の課題解決に最適です。
「マイグレーション」と「リプレース」を身近なイメージで例えると、以下のようになります。
マイグレーション:お気に入りの家具をそのまま持って、新しい家に引っ越す
リプレース:家具を全部手放して、新居には新しい家具を揃える
「マイグレーション」と「リプレース」それぞれに向いている状況があるので、システムをどう活かしたいかが選び方のポイントになってきます。
2.コンバージョン、再構築の違い
「マイグレーション」「リプレース」について説明しましたが、IT用語には似たような意味の「コンバージョン」「再構築」という言葉があります。
コンバージョン(Conversion)とは、システム内のデータやファイル形式を別の形式に「変換」する手法で、例えばプラットフォームが変わってもデータが活用できるようにフォーマットを調整するケースなどが当てはまります。
あるデータベースの構造を新しい形式に変換したり、別のアプリでデータを利用できるようにしたりするのが典型的なケースです。
一方、再構築は、既存システムを見直して改善や機能追加を行いながら、使いやすくする手法です。
システムの一部を再利用しつつも、より効率的で現代的な形にします。
リプレースは、再構築と似ていますが、既存のシステムを改良する再構築に対し、リプレースは新しいシステムへの完全な切り替えを指します。
3.4つの移行方法の意味と目的
それぞれの選択を検討する前に「マイグレーション」「リプレース」「コンバージョン」「再構築」の4つの用語の意味と目的をまとめて整理しておきましょう。
マイグレーション
意味:システムやデータを新しい環境やプラットフォームに移行する
目的:既存システムのデータや機能を新しいシステムで利用できるようにするため。
または、システムのパフォーマンス向上やセキュリティの強化
リプレース
意味:既存のシステムを完全に新しいものに置き換える
目的:古いシステムの機能を新しい技術やアーキテクチャに置き換え、現代のビジネスニーズに応えるため
コンバージョン
意味:データやファイル形式を異なる形式に変換する
目的:既存のデータを新しいシステムで利用できるようにするため、データの互換性を確保する
再構築
意味:既存のシステムの設計やアーキテクチャを見直し、改善するために再設計する
目的:現行のシステムの機能を活かしつつ、性能向上や新機能の追加を図るため
以上の4つの手法の中から、本記事ではマイグレーションとリプレースに焦点を当てて紹介します。
4.マイグレーションとリプレース それぞれのメリット・デメリット
システム移行を考える際、現行システムを部分的に活用して新しい環境に移行する「マイグレーション」と、システムを一から再構築する「リプレース」のどちらを選ぶかは、大きな決断となります。
それぞれの方法には、利点と課題があり、目的やリソースに応じた最適な選択が重要です。
マイグレーションとリプレースのメリットとデメリットをそれぞれ3つ挙げ、詳しく解説します。
マイグレーションのメリット
- コストを抑えやすい
既存資産を活用するため、リプレースより低コストで移行が可能 - 移行リスクが比較的低い
システム全体の刷新を避けるため、トラブルのリスクが比較的少なくなる - 業務の継続性を保ちやすい
事業を停止が難しい場合や、移行後の即時運用が求められる場合には、マイグレーションが有効な選択肢になる
マイグレーションのデメリット
- 技術的な制約が残る
既存システムに依存するため、新技術への完全な適応が難しいケースがある - 将来の拡張性に限界がある
長期的な成長や新技術の導入に制限が生じるケースがあるため、将来的にフレキシブルなシステムが求められる場合にはデメリットとなり得る - ドキュメント不備と担当者不在
長期間運用されているシステムのマイグレーションでは、開発時の担当者が退職している場合やドキュメントが整備されていないなど、問題が生じやすい
※システムエグゼではこのような事象に対しリバースエンジニアリングを行い、レガシーシステムの解析から設計書の作成、マイグレーションその後の運用保守まで全て対応しています。
リプレースのメリット
- 最新技術の導入が可能
ゼロからの設計により柔軟で先進的なシステム構築が可能 - セキュリティを維持できる
適切なタイミングでリプレースを行えば最新のセキュリティ対策を維持でき、増加するサイバー攻撃にも対応しやすくなる - 長期的なコスト削減
設計段階でメンテナンスの効率化が考慮されているため、初期投資は高くても将来のコストパフォーマンスを重視するビジネスには適している
リプレースのデメリット
- 初期費用が高額
設計・開発からテスト・導入までの全工程を新たに実行するため、初期費用がマイグレーションに比べて高くなる - 移行リスクが高い
システムを新しく構築するリプレースでは、現行システムとの互換性やデータ移行に関する問題が生じやすく、トラブルが発生するリスクが高くなる - 移行期間中の混乱
新システムの開発と並行して現行システムを運用する場合、双方のシステムの管理が必要となり複雑さが増すとともに、移行中のデータ整合性やユーザーの混乱に対する対応が必要
上記に挙げたように「マイグレーション」と「リプレース」それぞれにメリットとデメリットがあり、システムの現状やビジネスニーズによって適した選択が異なります。
ビジネスに適した移行方法はどっちかを整理するため、マイグレーションを選ぶべきケースとリプレースを選ぶべきケースをそれぞれ挙げ、適した移行方法を考えていきましょう。
5.移行方法の選び方
ここでは、システム視点と経営視点から、どのようなケースで「マイグレーション」と「リプレース」のどちらを選ぶべきか、ポイントを3つにまとめ解説します。
マイグレーションを選ぶべきケース(システム視点)
- コストと時間の制約がある場合
マイグレーションは資金的な制約がある場合や短期間での移行が求められるプロジェクトに適しています。 - 既存システムに安定性があり、部分的な更新のみで対応可能な場合
長年安定して稼働しているシステムを全面的に変更する必要がない場合、特定の機能やインフラ部分だけを更新するほうがリスクも少なく、効率的です。 - レガシーシステムの特定の機能を維持したい場合
古いシステムに特化したビジネスロジックや独自の業務プロセスが含まれている場合、既存の業務フローを変えずに移行が可能です。
マイグレーションを選ぶべきケース(経営視点)
- 業務の中断を避けたい場合
現行システムを稼働させながら段階的に移行できるマイグレーションは、業務の連続性を保ちながら移行を進められます。 - 従業員への負担や顧客への影響を抑えたい場合
マイグレーションによる移行は、従業員に新システムの利用を段階的に促し、業務への影響を最小限に抑えられます。 - 既存のシステムで収集したデータ活用を重視している場合
長年のデータ蓄積があり、その活用が重要な場合には、データ変換や再構築を必要最小限に抑えながら新環境へ移行できるマイグレーションが効果的です。
リプレースを選ぶべきケース(システム視点)
- システムの老朽化が進んでいる場合
古いインフラやソフトウェアがメンテナンスの限界に達している場合、リプレースによって最新技術を取り入れ、性能向上が図れます。 - 拡張性や柔軟性が求められる場合
新しいビジネスモデルに対応したり、システムを迅速に拡張したりする場合には、リプレースによって柔軟なアーキテクチャやクラウドサービスを取り入れるのが有効です。 - システムの多層化や技術負債が大きい場合
長年の開発・運用によりシステムが複雑化し、メンテナンスの効率が悪化している場合、リプレースによって技術負債を解消し、単純で維持しやすい構造にするのが理想です。
リプレースを選ぶべきケース(経営視点)
- ビジネスプロセスの変革が求められる場合
新システムにより業務効率化と競争力向上が期待できます。 - 新たな規制や法的要件への対応が求められる場合
リプレースにより、法的要件に対応した最新のシステムに移行を行い、リスク管理を強化することで、コンプライアンスの確保につながります。 - グローバル市場への進出や多国籍展開を計画している場合
リプレースを通じて、グローバルに対応可能なシステム基盤を整え、国際的な市場への参入を容易にし、成長の機会を拡大できると言えるでしょう。
このようにビジネスにおけるシステム移行は、システム面のみでなく、経営的視点からも企業が持続的に成長するための重要な決断です。
最終的に、企業はそれぞれのケースに基づいて、システム移行の選択肢を慎重に検討することが、持続的な成長と競争力の向上に直結します。
6.まとめ
マイグレーションは、コストや時間の制約が厳しい場合に適しており、既存システムを最大限活用しながら業務の中断を避けられます。
マイグレーションの効果により、短期的な効率を保ちながら、徐々に新しい環境への移行が実現できます。
一方、リプレースは、システムの老朽化が進行している場合や、ビジネスプロセスの大幅な変革が求められる際に選択されるアプローチです。
新しいシステムへの移行により、最新の技術や機能を導入し、業務の効率化やセキュリティの向上が期待できます。
最終的に、システム移行における選択肢として、マイグレーションとリプレースのどちらを選ぶべきかという問題は、企業の状況や目指す目標に大きく依存します。
企業が自身のニーズや状況を十分に考慮した上で、マイグレーションとリプレースそれぞれのメリットを比較し、最適な移行手段の選択が重要です。
どちらの方法を採用する場合でも、しっかりとした計画に基づいた実行と、その後の結果の分析が成功への重要な要素となります。
システム移行にお悩みの際は、システムエグゼへご相談ください。