第6回:管理会計システムの未来

管理会計システムの勘所

春ですね。

いつのまにか暖かくなってきました。今これを書いている時点で、既に弊社の周りでも桜が咲き始めています。
今年も春が来ましたね。というか来ちゃいましたね。早いもので、このコラムも書き始めてもう6回目です。
花粉が飛び始める季節ということもあって、身の回りでは対策に苦労されている方も多く見かけます。


幸いにして私は花粉症ではないのですが、プロジェクトのメンバーの集中力が削がれるので他人事ではないですね。
耐えていてもくしゃみはとまらず、かといって薬を飲んでも眠くなる、では集中を要する仕事をする上ではとてもやっかいですよね。
根治できるような特効薬が早くできないかなと思います。

日本全体の生産性向上に帰依する発明になるはずなので、製薬業界の方々には是非とも頑張っていただきたいなぁと
思う今日この頃です。

それはさておき、前回予告通り、今回は「管理会計の未来」ということで書いてみたいと思いますが、自分でも「ちょっと大仰なテーマを掲げてしまったものだ」と、若干後悔しながらの記述だったりもします(笑)
管理会計システムの素人から始まり、携わって10年程度の経験で書ける範囲の事に留まりますので、軽い気持ちでお読みいただければ。

管理会計システムの現状おさらい

今現在ある管理会計システムがどんなものか、これまでのコラムで触れてきた内容でお伝えしきれているか若干心もとないので、改めて、今現在実装されているポイントを列挙してみます。
(特定の製品ではなく、私の知っている範囲の予算管理システムとして実装されている代表的なポイントです。)

  • 【業務の観点】
    ・予算管理単位基準でのデータ保持(勘定科目等)
    ・分析項目の設定(利益率、構成比等の分析指標計算)
    ・KPIあるいはビジネスドライバベースの予算立案機能
    ・セグメント別の会計管理(顧客、商品、地域、その他セグメントの種類多数)
    ・予算執行あるいは予実管理機能
    ・組織変更管理
    ・配賦管理
    ・予算編成業務フロー管理

  • 【システムの観点:ユーザインタフェース】
    ・Excelインタフェース
    ・Webインタフェース(ダッシュボード、グラフ)

  • 【システムの観点:アプリケーション】
    ・マクロ言語機能(独自計算機能やVBA等)
    ・データマート管理(次元あるいはマスタ管理)
    ・OLAP機能(自由分析機能)

ハードウェアに近いレベルでは、もっとたくさんポイントがあったりしますが、きりがないので業務の観点から比較的近い部分に留めておきます。

…それにしても、こう列挙してみると、今現在でもそれなりに業務要件を満たす機能が何らかの形で実現されている気がしますね。
管理会計システムに足りない物って、あとは何があるんでしょうか?

管理会計システムに足りない物

当コラムの第1回目でも触れましたが、管理会計の業務が目的としているのは、結局のところ企業のパフォーマンスを内側から測るということです。

これを行う基準として「お金」を用いる以上、サマリしたもっとも粗い粒度は財務諸表の科目ベース、最も細かい単位では、伝票ベースになります。
あまりに粗い粒度ではそもそも機能しませんし、伝票より細かくても扱いづらいですから、データの粒度という意味では、この範囲を出る事は有りません。もし、配賦で細かくしても、取引伝票より小さくすることに意味は無いでしょう。

また、小さい会社さんならば、伝票単位まで細かくしても管理できてしまうかもしれませんが、その投資は「費用対効果」を考えた場合、おそらくオーバースペックになるでしょう。
小さい会社さんでも「できればそこまでやりたい」という経営者は居るかもしれませんが、だとしても、この観点からすると現状の管理会計製品のライセンスは高額であると言えますね。

一方、それなりの設備投資を行う余裕のある規模の会社さんでも、必要機能は満たしているが、「困った」が出て来るポイントとして、以前の回でも触れた「パフォーマンス」が代表的な問題になります。
「より細かい単位で管理したい」、「今時点のサマリを見たい」とした場合、企業規模やデータ規模起因で、処理が間に合わない事があります。
また、これに関連して昨今では、「リアルタイム性」に対するニーズが強まっているように思います。
帳票や管理単位が「月次」であることが多いため、ほとんどのシステムでは月次で実績データを取り込むような実装が多いですが、より規模の大きい企業では日次より細かく「今時点の企業パフォーマンスを測りたい」というケースはあります。

こう考えると、今時点の管理会計システム、特に製品ベースでの「価格の高さ」と、システムとして「パフォーマンス」を担保するのが大変になりがちな所が、越えるべき課題と言えるかもしれませんね。

管理会計業務に足りない物

さて、システム的な課題は前項で挙げましたが、もうひとつの視点として、業務の側面から考えてみましょう。

管理会計という観点で行う業務上でよく「困ってる」と言われるのは、組織変更ですね。
一般的には、データの洗い替え等で対応することになるのですが、組織が変わるということはモノサシが変わるということですから、マスタ管理の手間はどうしても発生します。規模の大きい会社さんでは大量の移動を扱う手間が業務担当の手を煩わせている大きなポイントです。

が、そもそも勘定科目や組織といったマスタの内容は、どんな単位で予算や実績を管理したいかという意思に基づいて人が決める事です。
これをシステム的に吸収するのは難しく、結局人が判断して、手でコードを付け替えたり、差分の情報をメンテナンスする必要は排除しきれません。

また、業務上の用途に深く踏み込んで考えていらっしゃる昨今の経営者の間では、現状のよくある「プロフィットセンター」(売上部門)と「コストセンター」(間接部門)の「モノサシの違いをどう埋めるか」というところも議論されているようです。
管理会計上、取引の発生する部門ではパフォーマンスを測りやすいが、「間接部門の動きは、会計上、販管費としてしか計上されないため、稼働の効果が分からない」という問題です。

管理会計システムの未来

さて、ここまでで「システムの観点」と「業務の観点」で計4つの課題を上げてみました。
これらを解決する方法を備えることが、一つの未来像かなということで、少し具体的に考えてみましょう。


1.製品ライセンスの価格


そもそもこの問題は各製品ベンダーの投資額や運営コストに直結する事に起因しています。
企業ユースの製品であることから、より高機能なものに対するニーズは無くなりませんし、当然、高機能な製品を開発できる体力のある企業でないと中々作れないという点がその背景です。
また、プラットフォーム(OS)が進化し続ける限り、作り切りというわけにもいきませんし、バージョンアップやサポートの品質を考えれば、仕方ない部分もあります。

今時点で、これを覆す要素を、私は二つあると考えます。
一つは「クラウド化」、そしてもう一つは技術の自然的な広がりの結果としての「コモディティ化」ですね。
前者は今まさに日進月歩ですし、既にサービスを開始しているベンダーさんもあります。
セキュリティ品質の担保と、ネットワークがより高速化されていけば、今後数年で、十分なサービスに発展していくかもしれません。
後者は、まだ数十年かかりそうだとは思いますが、野心的な発展途上国あたりから、安価かつ高性能な製品が登場するかもしれません。もしかしたら既存の製品に匹敵するものが出て来るかもしれませんね。


2.パフォーマンス


これは、ハッキリ申し上げてハードウェアの進化頼みという所が大きいように思います。
昨今熱い注目を集めるITトレンドワードに「ビッグデータ」がありますが、これにも関連して、大量データを処理可能なアプライアンスサーバが流行っています。これは、所謂大量データを処理するロジック部分について、今の技術がかなり枯れてきていることを示唆している、とも取れるかもしれません。
(勿論、我々が知らないだけで、もしかしたらデータ処理をものすごく高速化するような理論が突然登場するかもしれませんが。SF好きな私としてはちょっぴり期待したいパターンです)

テクノロジーの進化はまだ止まらないでしょうから、ハードウェアの性能が上がり、価格が下がって来れば、より大量のデータを扱いやすくなり、いずれ「リアルタイム管理会計」の時代が来るかもしれません。


3.組織あるいはセグメント移動


挙げてみて考えましたが、、、これを自動化する方法ってあるんでしょうか?
…元のマスタを人が決めている以上、それをコンピュータに判断させるなんて事がはたして可能でしょうか…?

残念ながら今の技術ではかなりハードルが高いですよね。ただ、別のアプローチで希望が全く無くはありません。
昨今では、企業全体で統一されたマスタを管理するMDM(MasterDataManagement:マスタデータ管理)の仕組みが脚光を浴びていますから、一種類のマスタを管理するだけで管理会計システムもその恩恵に預かることは出来るかもしれません。
(但し、現状のMDMの仕組みには、未来の組織を管理する機能がどこまで備わっているかは私もまだ知らない範疇ですが。。。)

ただ、こうした人の意思が介在する必要がある以上、がんばっても、そこまでかなと思います。
更なる解決を望む方法は、それこそAI(人工知能)の登場を待つしかないかなと…。
未来過ぎて難しいですねコレは。

当コラムでの結論は、やはり「MDMとの連動」ということで…。


4.間接部門のパフォーマンス指標


この解決策の一つとして「企業内サービスへの配賦」というものがあります。
これは、実際にやっている企業さんもあり、弊社でも導入を検討した方がよいのではと思うくらいの概念ですね。
(先日、弊社代表と話していた際も同じ事が話に上がったので、やはり経営者の方はその点を気にするのだなと思った次第です。)
これは簡単に言うと、売上部門から間接部門へ、サービスを受ける割合で売上や費用を配賦して、間接部門のパフォーマンスをお金で測るというものです。

実際の数値ではない以上、KPIとして扱う形にはなりますが、各予算や実績を計上する際に、こうした実数が付くことによって、間接部門担当も、うかうかしていられなくなりますよね。
(…と書くと若干語弊があるような気がしなくもないですが。)
ただ、どんなにがんばっても、稼働時間の数字か、あるいは経費をどれだけ削減したかという、どちらかというと後ろ向きな指標でしか見えない部分にフォーカスが当たるので、日頃頑張っていらっしゃる間接部門の方々が、より意欲的に頑張れるようになるのではないでしょうか。

が、弱点も無くはないです。どの単位で入れるかにもよる部分はありますが、予算や実績を入力する際の、入力の手間は必然的に増えます。

実際に導入される場合は、この手間をいかにして軽減するかが肝になりますので入力ユーザとの十分な折衝・教育を心していただくのがよろしいかと思います。




…と、いうことで、今回はここまでです。
いかがでしたでしょうか?「管理会計システムの未来」という大仰なテーマに対して多少なりとも答えになっているとよいのですが。

さて、当初6回の予定で始まった当コラムですが、今回でおしまいに…なりませんでした。
「もうちょっとだけ続くんじゃ」ということで「管理会計システム構築における失敗談」とでもしておきましょうか…。
また次回をお楽しみに。