プラント保守業務をアジャイル開発でDX化し、3年間で26万時間以上の効率化に成功
アジャイル開発による業務システム構築
- サービス:
- 課題・ニーズ:
- 社名
- 出光興産株式会社 様
- 事業内容
- 燃料油、基礎化学品、高機能材、電力・再生可能エネルギー、資源の各分野の多様なエネルギーと素材の開発・製造・販売
- URL
- https://www.idemitsu.com/jp/index.html
- 設立
- 1940年3月30日
- 資本金
- 1,683億円
導入前の課題
- 定期保守業務の作業に膨大な時間がかかっていた
- 事業所ごとに規模や保守対応数が違うため、業務フローが異なっていた
- 機能追加などで体制強化や変更があり人材確保が必要だった
導入後の効果
- システム導入により、3年間で26万3000時間の業務効率化
- 各事業所へ統一したシステム導入により、業務の標準化が実現
- オフショア利用により技術者人材の安定的な確保ができた
導入に至った背景
全社のDX化を推進

事業構造改革・DX推進室 室長 佐久間 修也氏
1963年に操業開始した出光興産の千葉事業所は、115万坪の広大な敷地に製油所と石油化学工場を擁しており、出光グループ全体の約20%の石油製品を生産する基幹事業所です。
千葉事業所の敷地内には24時間365日稼働しているさまざまな装置やパイプラインがあり、各装置の定期保守業務は非常に重要な業務となっています。
この定期保守業務の効率化を目指して2020年にスタートしたのが、「SDM(Smart Digital Maintenance)くん」プロジェクトでした。
現在、同プロジェクトを牽引するDX推進室の佐久間氏は、きっかけは全社的な取り組みだったと振り返ります。
「2020年に本社にデジタル変革室ができ、全社的にDXを進めることになりました。まずは製造現場からということで、出光最大のプラントである千葉事業所でヒアリングが行われました。その時に課題に上がってきたのが、定期保守の作業的な手間の問題でした」

先進システム開発グループ 山口幸雄氏
現在、技術面からSDMくんのプロジェクトマネージャーを務める生産技術センターの山口氏は、当時の定期保守業務について、現場の負担が大きかったと振り返ります。
「当時は定期検査で補修が必要になると、報告書を保全部門へ渡して補修の依頼をし、運転部門に補修の日程調整を依頼する…といった業務を書類で行っていました。千葉事業所は規模が大きいので、補修件数は数百件にものぼり業務負担も大きく、補修漏れのリスクもありました」
補修対応は一度でも漏れがあれば、装置の稼働を止める必要が出るなど、大きな損失につながりかねません。こうしたリスクを減らすため、まずは検査報告書のデジタル化が最優先で進められました。
プロジェクト進行
アジャイル開発により柔軟でスピーディーな開発を実現

事業構造改革・DX推進室 片山 修太郎氏
本プロジェクトの特徴の一つは、アジャイル開発を採用したことでした。
しかし当時はアジャイル開発の経験が豊富なメンバーが少なく、開発手法の勉強や資格取得など、アジャイル開発への理解を深めながら、2週間ごとのリリースが続くという慌ただしい日々が続きました。
「現在は毎朝行っているミーティングも、最初のうちはどの時間帯に開催するのが一番効果的なのかもわからず、試行錯誤しました。また機能が追加されることで、最初は数名だったメンバーがどんどん増えて、メンバー間の情報伝達方法も変えていく必要がありました」(山口氏)
DX推進室の片山氏は、アジャイル開発の特徴でもある「仕様変更」も当初はシステムエグゼの対応が追い付かず、チームの雰囲気が悪くなってしまったこともあると振り返ります。
「お互いにウォーターフォールでの開発に慣れていたこともあり、仕様変更が当たり前のように起こるアジャイル開発の感覚をつかむまで、チームの雰囲気が悪くなってしまったこともありました(笑)。しかし現在は、お互いにアジャイル開発を理解しているので、システムエグゼも我々が本当にやりたいことは何なのか将来像をしっかりヒアリングしてくれて、大きなブレが発生しにくくなってきていると感じます」

事業構造改革・DX推進室 新井良太氏
プロジェクトの影響範囲が広がっていく中で、大きな役割を果たしているのがアジャイル開発の役割であるプロダクトオーナー(PO)の存在だとDX推進室の新井氏は言います。
「今回のプロジェクトでは、機能ごとにPOが任命され、現場ユーザーと開発側との窓口になっています。POはそれぞれ機能の専門家で、担当する機能に関しての決定権を持っているため、利用するユーザーも何か意見があれば、目の前のPOに伝えれば良いという状態はとてもわかりやすいと思います」
現在はSDMくんにユーザーが直接フィードバックを送れる機能も実装しており、日に3~4件のフィードバックが送られてきます。 「こうしたフィードバックにスピード感をもって応えられるのもアジャイル開発だからこそです。打てば響くから、ユーザーからのフィードバックも途切れないし、システムへの信頼感が増して本当に使われるものになっていると思います」(新井氏)
導入の効果
業務効率化だけではない大きな成果
こうして2020年に千葉事業所でのプロトタイプのリリースが行われた後、SDMくんは検査報告書以外にもさまざまな機能を追加しながら開発が続けられています。
2021年には他事業所へも展開が開始され、システムエグゼも導入を現地でサポートしました。
2025年現在、SDMくんは全国4事業所の7,000人を超えるユーザーが利用する大規模な業務システムとなっています。導入による業務効率化の効果は大きく、約3年間で26万3,000時間を削減できたと試算されています。
しかし効果は単に業務効率化だけにはとどまりません。
「他事業所への展開を進めていくと、事業所によって管理する装置の規模や数が異なるため、そもそもの定期保守業務の進め方が異なることがありました。これをSDMくんに合わせていくことで、どの事業所でも同じ業務フローや品質で管理できるよう、業務の標準化も実現しました。またトラブルが起きた際に、過去の事例を事業所内だけでなく全事業所のデータの中から対策を調べることができるようになった点もユーザーからの評価が高いです。」(山口氏)
「今やSDMくんは業務になくてはならない存在になっています。多少の不具合や不都合があっても、どうやって良くしていこうか、育てていこうか、という意識に変わっているのを実感しています。こうした愛着を持てるのはPOの力とともに、システムエグゼがユーザーの声にすぐに応えてくれている点も大きいと思います」(佐久間氏)
オフショアの利用
体制の安定化を実現

海外ビジネス推進室 DM ルーンティー ウィーンホアイ
本プロジェクトでは、機能追加や他事業所への展開により継続的に体制強化が行われましたが、2025年4月にはさらなる技術力の強化と安定化を図るために、システムエグゼベトナムのオフショア(BotDev)の利用が始まりました。
開始当初は5名体制でしたが段階的に増員を進め、現在(2026年1月時点)では8名に増えています。これにより開発とテストの両面で作業の平準化が進み、体制の安定化につながっています。 しかし、佐久間氏は当初オフショア利用には、コミュニケーションやプロジェクトマネジメント面での不安もあったと言います。
「システムエグゼからオフショアの打診があった当初は、やはり多少の不安はありました。でもまずはやってみようと受け入れてみることにしました」
SDMくんの開発は機能ごとにチームを分けて推進しており、オフショア活用もチーム単位で進められています。開始当初は2機能での利用でしたが、コミュニケーションの要となるブリッジSEが2名体制となったことで調整力が増し、現在は3機能での利用へと拡大しています。
山口氏も過去の経験からコミュニケーションに不安があったものの、実際にスタートすると早々に効果を感じられたと言います。
「まず窓口となるブリッジSEであるホアイさんの対応がすばらしかったです。依頼内容をそのまま行うのではなく、依頼した仕様で進めると発生するリスクの説明まで、きちんとフィードバックしてくれます。さらに開発のスピード感も格段に上がりました。プロジェクトが始まって5年も経つと、依頼した作業にどの程度の時間がかかるのかがわかってきます。それがオフショアを利用したら、1週間ぐらいと想定していたものが翌日にはテスト依頼がきたので、とても驚きました。
「スピード感だけでなく品質も両立している点は驚きでした。これまではテストの依頼があると、必ずフィードバックする内容があるのが当たり前でしたが、オフショアで上がってくるものについては、フィードバックする内容がなかったんです。システムエグゼのオフショア開発では、1個の不具合への対応依頼から10個の不具合を見つけて修正してもらえるイメージなので、既存のシステムの改修よりも、新規の開発から入っていただくほうがフィットする感覚があります」(片山氏)
インタビューではシステムエグゼの開発者からも、オフショア担当者の入念なテストに安心感があるとのコメントもあり、プロジェクトメンバーのオフショア開発への高い信頼度が伺えました。オフショア利用により、手戻りを前提にした進め方ではなく、前後の影響まで踏まえて確認し、品質を作り込みながら前に進められることが、継続的な改善と体制の安定化につながっています。
今後の展開
業務効率化からデータ活用へ
プロジェクト開始から5年余りを経て、業務に欠かせないシステムとなったSDMくん。システムが成長していく中で、佐久間氏は今後の展望を2つの視点から考えていると言います。
「SDMくんが導入されたことで、業務効率化と業務精度の向上が実現しました。次はこのデータを活用し、業務がどこで滞ってしまうのか自分たちの弱点に気づけるようにしていきたいと思っています。もう1点は変化への対応です。やはりSDMくんがここまで愛着を持ってもらえるのも、ユーザーの声にスピーディーに応えられてきたからこそ。業務は時代によって変化しますから、その変化に柔軟に対応できる体制を継続していきたいと思っています」
アジャイル開発によるスピード感のある開発の中、成長を続けてきた出光興産のSDMくん。今後は生成AIを利用した品質の向上なども検討されており、システムエグゼはグループ一丸となって引き続き、同社のDX推進をサポートしていきます。
※記載内容は取材当時のもので、最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。